本館1階 玄関ポーチ
玄関ポーチの天井には、石川家の家紋に使われている「笹竜胆」、柱の周りにはキリスト誕生逸話の三賢者をほうふつとさせる星のような透かし彫りが見られます。
玄関ポーチを照らす照明にも笹竜胆のマークがあります。
また、玄関ドアの周りの壁には化粧レンガではなく白いタイルが貼られています。
ドアにはアールデコ調の鉄飾りが付いています。
玄関
床は色タイルで模様が付けられており、天井板も四隅に模様があります。壁には大理石が腰板のように付いています。見上げると、黒い直線の模様が特徴的な照明が暖かく出迎えてくれます。
玄関ホール
大理石製の飾り暖炉が正面で出迎えてくれます。階段横に置いてある椅子とテーブルには創建当時の家具に多く使われている条線紋が見られます。テーブルには扉が付いており、物が入れられるようになっています。
階段下のスペースは、小さな扉があり物置になっています。階段吹き抜けの壁には大きな窓があり、特に午後は西日でまぶしいくらいに明るくなります。奥には外へ続く扉があります。
床は板を斜めに組み合わせ、見ていると光の当たり具合で様々な表情を見せてくれます。これは一般家屋によく見られるまっすぐな並べ方よりも難しい工法だといいます。
シャンデリアでできている照明は、残念ながら当初の物が壊れてしまったため、昭和になってから付け替えたものです。当初のものは2階ホールのシャンデリアに近いデザインであったといいます。
天井は鉄板をたたき出して付けた細かな模様で、現在は白く塗られています。元はどのような色だったのか、はっきりしていません。鉄板というのは、天井の材質としては珍しいものですが、当時は最先端だったのかもしれません。
壁の高い腰板も特徴的で、ケヤキとみられる木目の美しさがすばらしいものです。
食堂
天井は、折上天井(天井に段差をつけるもの)で、模様は直線による幾何学的な構成です。天井の段差を付けたところの透かし模様は照明器具と共通のものとなっており、照明も建物に合わせて特注で作られていることが分かります。
床の周囲には組細工の模様が付いています。
部屋中央の長テーブルや鏡の付いたサイドボードなど、創建当時からある調度品が見られます。壁にかかる絵は向かって右が現在の黒須団地の位置にあった本店工場、左が川越の第三工場を描いたものです。
サイドボードの上には、創業者の石川幾太郎とその妻せいの肖像画があります。
サイドボードには葡萄の模様が。
葡萄は小さい棚やカーテンレールにも彫られています。他の部屋でもみつかるかもしれません。探してみてください。なぜ葡萄なのか?それは、はっきりとはわかっていませんが、石川家がキリスト教を信仰していたことが関係しているかもしれません。また、葡萄はたわわに実る様子から五穀豊穣、子孫繁栄の象徴とされるため、縁起を担ぐ意味でしょうか。想像がふくらみます。
応接室
各部屋の中でもひときわ凝ったつくりです。
天井は寺社建築にも使われる折上小組格天井(周囲を折り上げ天井部は小さい格子模様をもつ天井)。壁は貴重な創建当時の壁紙が残っています。他の部屋の壁紙は新しく貼り替えられていますが、当初は同じ壁紙が貼ってありました。床のペルシア絨毯も創建当時のもので、部屋の大きさに合わせて作られています。非常に高価なものだったということです。床の内側は一段盛り上げてあり、周囲の組細工による模様も他の部屋より複雑なものになっています。
幾太郎が69歳の記念として大正15年11月下旬に製作された本棚が置かれています。この本棚の4枚の扉には、桐の板材に文字を彫り残す(陽刻)技法で文字があります。右側3枚の文字は、中国の歴史書「書経」から取られています。右から「八音克諧 無想奪倫 神人以和」と読み、「物事がよく調和し、互いに関係を乱さなければ、自然と人は一つになれる。」という意味があります。
また、左側の1枚には本棚の由来が記されています。文字は東京の儒家・亀田英の筆になります。
控え室(寝室)
進駐軍より返還後の使われ方から寝室と呼ばれていましたが、もとは応接室の隣で玄関の正面に当たることから、応接室の控えの間として使われていたと考えられます。床は、周囲に組細工をもち、内側は応接室と同様に一段盛り上げてあります。天井にも壁と同じクロスが貼られていますが、いずれも当初のものではありません。
テラスに出られるドアと窓がひとつずつあり、他の部屋に比べて小さく、シンプルな装いになっています。壁には長押をもち、壁紙を囲む木枠には「雷紋」が施され、この部屋を特徴づけています。「雷紋」は照明の側面にも使われています。
この部屋のほか、「雷紋」は建物軒下と2階大広間の床の組木の模様にも取り入れられています。
客室
大きな出窓が明るい雰囲気を出しています。おそらく当時は広い庭と霞川の良い景色が望めたのでしょう。天井は鏡天井という真っ平らなもので、壁との境には短い角材を張り出させています。これは西洋建築の垂木をモチーフにつくられたもので、「歯飾り」と呼ばれます。
照明は、小ぶりながらステンドグラスでつくられています。夜になると美しく落ち着く灯りで照らしてくれます。
床には矢羽根文様が組木細工で付けられています。
入って右側のドアは、戦後進駐軍に接収された際につけられたものです。
階段
階段は特に良質な材を贅沢に使っていることがよく分かる所です。踏み板は全て一枚板でできており、手すりの柱には糸の房のようなモチーフを彫り出して作っています。
この階段はいろいろな角度から楽しめます。西洋館独特の雰囲気を出しており、写真撮影にも人気の場所です。
階段の踊り場には上半分しか見えない窓が付いており、来館者を困惑させますが、これはおそらく外観のデザインを意識して付けられた窓だと思われます。
参考文献
入間市博物館アリットや市役所でお買い求めいただけます。在庫切れの場合もありますのでお問合せ下さい。
- 入間市博物館紀要第9号
- 特別展図録 石川組製糸ものがたり